撮影会から戻り、興奮冷めやらぬままPCの画面でRAWデータを開いたとき、ふとこんな違和感を覚えることはありませんか?
「現場ではめちゃくちゃ可愛く撮れたと思ったのに、いざ画面で見ると、なんだか全体的に地味で、被写体が埋もれている気がする……」
以前の第十一回では、ホワイトバランスが大きく崩れて緑色になってしまった写真をLightroomの基本パラメータで救済する「失敗写真の救出」をお届けしました。しかし今回は、致命的なミスというわけではないものの、「もう一歩、自分の理想のイメージに近づけたい」というステップです。
7月31日に参加したスタジオでのセッション撮影会で撮影した1枚を題材に、私がどのような意図でパラメータをいじり、背景と被写体をコントロールしたのか。その「現像のロジック」を公開します。
1. レタッチ前の「生データ」が抱える課題
今回題材にするのは、セッション撮影会で撮影したこちらのカットです(RAWデータを補正せずそのまま書き出した状態)。

カメラのファインダーを覗いていた当時はその場の空気感に包まれていたため気付きませんが、こうしてプレーンな状態のRAWデータを冷静に眺めると、いくつかの課題が見えてきます。
- 全体的なトーンの落ち着き: 悪くはないものの、少しアンダー(暗め)で、スタジオの空間に被写体が埋もれがちになっている。
- トリミングの余白: 撮影時のフレーミングのままだと、周囲の不要な空間が少し広く、本当に見せたい被写体の存在感が薄れている。
「この写真を、自分の頭の中にある理想のイメージ――すっきりと明るく、主役がパッと浮き立つようなポートレートに仕上げたい」。ここから私のLightroomを使った再構築(レタッチ)が始まります。
2. プロセス①:自動トリミングによる「構図の引き締め」
まずは構図の最適化です。今回はLightroomの自動トリミング機能を活用し、被写体が最も引き立つ絶妙なフレーミングへ切り直しました。
13年前のエントリー機であるEOS Kiss X7の画素数を考慮しつつ、不要な周辺情報を大胆にカット。これによって、画面を開いた瞬間に視線が自然と被写体へ誘導される「主役の存在感」を作り出しています。
3. プロセス②:全体のベース構築(ライト・カラー・効果)
構図が決まったら、次は写真全体の土台となるベースを作ります。ここで意識したのは、「全体を明るくすっきり見せるためのキャンバス作り」です。
ライト調整
- 露光量(+0.20): 全体のトーンを少しだけ持ち上げ、ベースの明るさを確保。
- コントラスト(+15): 画面全体にメリハリをプラス。
- ハイライト(-20) & シャドウ(+20): 明るい部分の白飛びを防ぎつつ、暗く沈んでいる部分を持ち上げてディテールを救出。
- 白レベル(+5) / 黒レベル(0): 全体の引き締まりを微調整。
カラー調整
- 色温度(3300 / 元画像は4000): ここが今回の大きなポイントです。元画像の4000Kから思い切って3300Kへと寒色寄りに引き下げました。「えっ、青っぽく暗くなるのでは?」と思われるかもしれませんが、あえて全体を寒色に振ることで、視覚的な「透明感」と「すっきりした明るさ」を演出する下地を作ることができます。
- 色被り補正(26 / 元画像は21): マゼンタ方向へ少し寄せ、全体のバランスを整えています。
- ※カラーミキサー、ポイントカラー、カラーグレーディングは今回はあえていじっていません。
効果・ディテール・レンズ
- 効果: テクスチャ(-5)で肌の質感が硬くなりすぎるのを防ぎつつ、明瞭度(+15)とかすみの除去(+15)でパリッとした輪郭と抜け感を加えました。
- ディテール: ノイズの除去(50)をかけ、暗部に出がちなざらつきをしっかりと抑え込んでいます。
- レンズ補正: 色収差を除去、レンズ補正ともにON。
4. プロセス③:主役を際立たせる「被写体マスク」の妙技
全体をすっきりとさせただけでは、まだ「普通の綺麗な写真」で止まってしまいます。ここからがポートレート現像の肝。Lightroomの「被写体マスク」を使い、モデルさんだけに向けたピンポイントの調整を行います。
被写体マスクの設定値
- ライト: 露光量(+0.50)、ハイライト(-60)、シャドウ(+45)、白レベル(+15)
- カラー: 色温度(+10)、色被り補正(-5)
- 効果: テクスチャ(-35)、明瞭度(-15)、かすみの除去(-15)
ここに、私が込めたロジックのすべてがあります。
- 背景と被写体の分離(立体感): 全体を明るくした上に、被写体マスクでさらに露光量を「+0.50」上乗せし、シャドウを持ち上げることで、背景からモデルさんをふんわりと浮き上がらせています。
- 「色温度」の二段構えによる肌色の美化: 全体調整の項目で、あえて色温度を「3300K」と低く(冷たく)して全体の透明感を作りました。しかし、それだけだとモデルさんの肌まで青白くなってしまいます。そこで「被写体マスク側では色温度をプラス(温かみ付与)し、色被りをマイナス(マゼンタ寄りで血色感アップ)」にするという逆の操作を行いました。
- 質感のソフト化: テクスチャ、明瞭度、かすみの除去をすべてマイナスに振ることで、肌の質感をなめらかに整え、ポートレートらしい柔らかで優しい立体感を演出しています。
5. 完工:データが「作品」に変わる瞬間
こうして、トリミング、全体のベース構築、そして被写体マスクによる細部のコントロールを経た結果がこちらです。

レタッチ前の少し沈んだデータと比べると、背景のすっきりした透明感と、モデルさんのふんわりとした美しい肌色が両立しているのが一目でわかると思います。
「RAWデータのままだと、どこか物足りない」 「思い通りの明るさや色にならない」
そんなときは、パラメータをただやみくもにいじるのではなく、「全体で何を作りたいか」「どこを主役にしたいか」を分けてロジカルにアプローチすることで、13年前のエントリー機で撮ったデータでも、ここまで自分の理想通りの「作品」に仕上げることができます。
撮影の現場だけでなく、PCの画面に向き合うこの現像の時間もまた、カメコとしての大きな楽しみの一つです。皆さんも、手元のアーカイブ写真でぜひ試してみてください!
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